コラム
人事労務に関係する主な制度変更について
令和5年4月から施行されている人事労務に関係する主な制度変更は次の通りです。
■月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ(中小企業)
【主な対象者:中小企業で働く労働者とその使用者】
令和5年3月31日まで、1ヵ月の時間外労働が60時間を超える場合に中小企業では残業割増賃金率が、25%でしたが、令和5年4月1日から50%に引き上げられました。
これまでも大企業においては2010年の労働基準法改正から、月の時間外労働60時間以上の超過分の割増賃金が50%と定められていましたが、中小企業は13年間猶予措置が取られていました。今回の改正でようやく足並みがそろうことになります。
中小企業に該当するかどうかは、業種や労働者数等の上限を満たす場合に企業単位で判断されます。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する労働者数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
上記以外のその他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
制度改正によって、就業規則の変更が必要になる場合があります。また、引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに、有給休暇を付与することができます(代替休暇)。
実務としては、月60時間超の時間外労働の把握と、時間数の計算が必要になります。
この制度改正は、割増賃金または代替休暇の付与を義務付けることにより、中小企業においても長時間労働や時間外労働を抑制することが目的です。特に人員確保が難しい中小企業では時間外労働が多く、長時間労働を減らず取り組みが必要になります。
これを機に自社の労働時間を可視化し、長時間労働を抑えるシステムの構築に活用されるとよいでしょう。
▼詳しくは、厚生労働省の改正概要をご覧ください。
■賃金のデジタル払い制度の開始
【主な対象者:事業者、労働者等の関係者】
賃金の支払先口座に資金移動業者を選択できるようになり、いわゆる賃金のデジタル払いが可能になりました。
これにより、労働者は賃金受け取り口座にとして、これまでの銀行口座・証券総合口座に加えて資金移動業者(paypayや楽天payなど)を指定することができるようになりました。
資金移動業者に賃金が振り込まれれば、現金でチャージしなくてもデジタル決済が可能になりキャッシュレス促進に向けて利便性の向上が見込まれます。
事業主は振込手数料の削減を期待できますが労働者の同意が必要なため、これまで通り現金支払いとデジタル払いに対応することになり事務負担は増えます。
金融庁が公表している登録資金移動業者は令和5年3月31日時点で84業者ありますが、この中から、条件を満たして申請し厚生労働大臣からの指定を受けた業者のみ賃金受け取り業者として登録されます。
法令施行開始と同時に登録の申請は始まっていますが、令和5年4月30日時点ではまだ指定資金移動業者は掲載されていません(厚生労働省 HP)。
▲詳しくはこちらもご覧ください。
■男性労働者の育児休業取得状況の公表の義務化
【主な対象者:常時雇用する労働者が1,000人を超える企業】
育児・介護休業法の改正により、従業員が1,000人を超える企業の事業主は、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられます。
令和4年4月1日より段階的に施行された改正・育児休業法ですが、女性に比べるとまだまだ男性の育児休業取得率は低く、国の目標数値には届いていないのが現状です。そこで、事業主に対し男性の育児休業取得を促進するよう義務化していましたが、今回さらに取得率の公表を義務付け、男性の育児休暇取得率のアップにつなげることがねらいです。
公表内容は、
「育児休業等をした男性労働者の数÷配偶者が出産した男性労働者の数」
または、
「(育児休業等を利用した男性労働者の数+小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者数の合計数)÷配偶者が出産した男性労働者の数」
のいずれかです。
公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度における取得割合を公表することとなっています。
公表方法は、インターネットなど一般の方が閲覧できる方法にする必要があり、自社のホームページまたは厚生労働省の運営しているウェブサイト「両立支援のひろば」の活用が推奨されています。
男性の育児休業取得率公表によって、子育てと両立しやすい会社、長く安心して働くことができる会社と認識されれば、人材確保や社員の定着率アップが期待できるでしょう。
▲詳しくは、こちらもご覧ください。
人事労務に関する制度改正への対応や各種手続きについては、弊所までお気軽にご相談ください。